何年前のことでしょうか、私がならやま大通りを利用して通勤しているときのことです。ならやま大通りは朝の通勤時間帯は、スピード違反が当たり前のように猛スピードで走っているため非常に危険な道路です。その日、私が走行車線を走っている時でした。まるでカーチェイスをしているような車が追い越し車線を走っていきました。しばらくすると、道路が混み始めたと思ったら先ほどの車が横転しているではありませんか。白い煙を出しドアが開いて運転手は意識がなく上半身が道路にはみ出し、下半身は運転席に挟まっているようでした。通りがかった人は横目で見ながら皆通り過ぎていきます。さすがに私は医者でしたので知らぬ顔はできず自分の車を事故車の手前10mほどに停車させ救助に取り掛かりました。私が救助を始めるとトラックの運転手やタクシーの運転手が手伝ってくれ、けが人の救助や交通整理が始まりました。しかしそのときもう1台の車が猛スピードで接近し事故車の手前に停めていた私の車に衝突しました。激しい勢いで衝突したため私の車は救助中の私たちやけが人がめがけて突進してきました。これから先は忘れもしません。景色がスローモーションになり今でもはっきり思い出すことができます。ここで死んでしまうかもしれないと皆が思った時です。私の車が事故車の手前で方向が少し変わったのです。私の車は救助している私たちのギリギリ横をかすめ、けが人の手の先を踏んで通り過ぎ歩道に乗り上げ大破しました。不思議なことにけが人の手は何もないかのようでした。この後、大急ぎでけが人を歩道に移し人工呼吸をすると数分後に意識が戻り救急車で運ばれて行きました。
この事故には後日談があり、警察の話によると事故を起こした人も、私の車に猛スピードで追突した人も市役所の同じ部署に所属する公務員だったということです。けがをした人とその父親が私の勤める病院にお礼に来たとき、父親から最初に出た言葉は「市役所には内緒にしてほしい」でした。私はこの父親の言葉にしばらく言葉が出ませんでした。
しかし私たちに向かってきた私の車が私たちの直前で方向を変えたというこの不思議な体験を通して、見えない大きな力が、一人一人の人間を守っているのではないか、と考えるようになったことです。
あかねさす紫野行き標野行き
野守は見ずや君が袖振