2018.2.13


       

             お迎えが来た!

  私のクリニックは隣に9室の小さな高齢者住宅を併設しています。8年前に開設した時は入居者さんも若く、亡くなる方は年に1人あるかないか程度でした。しかし最近は、高齢化と重症化が進み往診の方も含めれば年4−5人の方が亡くなられます。亡くなられる前に時々お迎えが来たといわれる患者様がいます。はじめは私はスピリチュアルに興味があったにも関わらず、寝言か夢を見ているのだろうと思って聞き流していました。奈良県の男性最高齢者のFさんが亡くなられる時も、「家族が迎えに来た」と言っておられ、それから1週間ほどして亡くなられました。この方は108歳という高齢でしたので脳の機能が落ちてそのような夢を見たのだろうと思っていました。
 しかし気管支喘息と慢性呼吸不全で入所していたAさんの場合は少し違っていました。この方は90歳の高齢ではありましたが、まだ症状的には亡くなる程悪化しておらず、食事も自分で摂れていました。しかし亡くなる1週間ほど前から他界した家族が迎えに来ていると私たちに話すようになりました。私はまだ亡くなるような状態ではないので大丈夫んです。と伝え本人も安心していました。しかしある日夕食をおいしく食べた後、夜中にヘルパーと話しているとき突然呼吸ができなくなり、亡くなられてしまいました。おそらく痰が軌道に詰まり窒息されたのだと思います。この方の場合、90歳とはいえ脳の機能が普段より低下していたとは考えにくく、また症状も落ち着いていたのでせん妄状態でもなく昏迷や脳に障害が起きお迎えを見たとは考えにくいと思います。私はこのときから本当にお迎えはあるのではないかと思うようになりました。
 そして今月、慢性腎不全で入所しておられたNさんが徐々に尿が出なくなり亡くなられました。そしてこの方も、1週間前からお迎えの話をされるようになり、静かに息を引き取られました。私はお迎えの話を聞いたとき、あぁこの方ももうすぐ旅立たれると思いそれ以後医療処置はせず看取りだけを行いました。たくさんの方を見送ると生死の境界が分かりにくくなってしまいます。魂は肉体を脱ぎ捨て新しい世界へみんなが待っている世界へ、親しかった人と一緒に旅立っていくだけではないか、すでに亡くなった人も誰もいなくなったわけではなく厳然と存在しており、あの世で私たちが来るのを楽しみにしているかもしれません。



                                  

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